【労働時間】
厚労省が策定した「労働時間適正把握ガイドライン」のポイント!
◆1月20日に公表
近年、労働時間削減は多くの企業において喫緊の課題となっており、政府の「働き方改革実現会議」でも長時間労働の是正について様々な議論がなされています。
昨年12月には厚生労働省から『「過労死等ゼロ」緊急対策』が公表され、“違法な長時間労働を許さない取組の強化策”として以下の項目が挙げられていました。
(1)新ガイドラインによる労働時間の適正把握の徹底
(2)長時間労働等に係る企業本社に対する指導
(3)是正指導段階での企業名公表制度の強化
(4)36協定未締結事業場に対する監督指導の徹底
このうち上記(1)に対応するものとして、厚生労働省から1月20日に「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」が策定・公表されました。
◆本ガイドラインの位置付け
従来、事業場における労働時間の管理方法については、平成13年に発出された通達「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準」(いわゆる「46 通達」)が1つの目安となっていましたが、今回のガイドラインはこの通達を修正するかたちで策定されました。
◆本ガイドラインで注目すべき点
従来の通達と今回のガイドラインを比較してみると、「労働時間の考え方」という項目が新たに追加されました。
この項目では、労働時間とは「使用者の指揮命令下に置かれている時間のこと」であり、使用者の明示または黙示の指示により労働者が業務に従事する時間は「労働時間に当たる」とされ、業務の準備や後始末の時間、手待時間、研修等の時間であっても労働時間に該当する例も示されています。
また、「使用者が講ずべき措置」の内容が従来の通達よりもかなり具体的に示されました。
特に自己申告制により始業・就業時間の確認等を行う場合の措置について、労働時間の管理者に対して「本ガイドラインに従い講ずべき措置について十分な説明を行うこと」を使用者に求めており、労働者の自己申告により把握した時間とPCの使用時間の記録等により判明した時間に“著しい乖離”が生じている場合には実態調査を行って労働時間を補正すること等を求めています。
◆その他の注意点
その他、「三六協定の延長」や「賃金台帳の調製」についての注意点も記載されていますので、本ガイドラインに一度目を通しておき、今後の労働時間管理に活用することをお勧めいたします。
【労働時間】
労基署の監督指導結果にみる「長時間労働が疑われる事業場」の実態
◆10,059事業場が是正・指導の対象に
1月中旬に厚生労働省から、昨年4月~9月に行われた労働基準監督署による監督指導結果(長時間労働が疑われる事業場に対する監督指導結果)が公表されました。
今期は、「1カ月当たり80時間を超える残業の疑いがある事業場」や「長時間労働による過労死などに関する労災請求があった事業場」など、10,059事業場が是正・指導の対象となっており、このうち6,659事業場(66.2%)で労働基準法などの法令違反があったとのことです。
なお、前年同期の監督指導件数(法令違反あり/実施事業場)は、次のように変化しています。
・平成27年:3,823/4,861
・平成28年:6,659/10,059
平成27年度は、「月100時間」を超える残業が疑われる事業場等が対象であるのに対して、平成28年度は「月80時間」に対象が拡大されたという違いはありますが、長時間労働やそれに伴う健康障害などに対しては、より厳しい目が向けられていると理解したほうがよいでしょう。
◆是正勧告、是正指導の状況
是正勧告書が交付された法違反の内容を見ると、違法な時間外労働が4,416事業場、賃金不払残業が637事業場、過重労働による健康障害防止措置の未実施が1,043事業場となっています。
業種別では、違反割合の多い順に、(1)接客娯楽業、(2)運輸交通業、(3)製造業で70%以上、(4)商業、(5)教育・研究業で60%以上、(6)その他の事業、(7)建設業で50%以上となっています。
一方、主な健康障害防止に係る指導票が交付された事業場は、次の通りでした。
・過重労働による健康障害防止のための指導:8,683事業場
・労働時間適正把握基準に関する指導:1,189事業場
ここでは、長時間労働となっている労働者への面接指導等の実施、月80時間以内への残業削減や始業・終業時刻の確認・記録、自己申告制による場合の実態調査などについて指導が行われています。
◆今後の情報にも注意が必要
現在、時間外労働の上限規制について政府が検討を進めるなど、労働時間に関する制度改正が予定されていますので、今後の情報に注意が必要です。
◆通常国会に法案提出
現在開会中の通常国会に「雇用保険法等の一部を改正する法律案」が提出されました(1月31日)。
雇用保険法、労働保険徴収法、育児・介護休業法、職業安定法に関わる改正となっていますが、企業に影響のある改正を中心にみていきます。
◆失業等給付に係る保険料率および国庫負担率の時限的引下げ
平成29年度から平成31年度までの各年度における雇用保険料率および国庫負担率が、時限的に引き下げられます。
雇用保険法、労働保険徴収法に関わる改正で、平成29年4月1日の施行予定です。
◆育児休業に係る制度の見直し
現在の育児休業は原則1歳までで、保育所に入れない場合等に限り1歳6カ月まで延長が認められていますが、改正により、さらに6カ月(2歳まで)再延長できるようになります。また、それに合わせて育児休業給付の支給期間も延長となります。
育児・介護休業法、雇用保険法に関わる改正で、平成29年10月1日の施行予定です。
◆職業紹介の機能強化および求人情報等の適正化
(1)ハローワークや職業紹介事業者等のすべての求人を対象に、一定の労働関係法令違反を繰り返すブラック企業の求人は受理されなくなります。現在は、ハローワークにおける新卒者向け求人のみが対象となっていますが、改正が行われれば中途やパートなどすべての求人が対象となります。
他にも、(2)会社が虚偽の求人申込を行った場合、罰則の対象となります。また、(3)採用時の条件があらかじめ示した条件と異なる場合等には、その内容を求職者に明示することが会社に義務付けられます。
いずれも職業安定法に関わる改正で、(1)は公布から3年以内、(2)(3)は平成30年1月の施行予定です。
◆その他の事項
その他、失業等給付の拡充として、「給付日数の延長」や「雇止めされた有期雇用労働者の所定給付日数の延長」、「専門実践教育訓練給付の給付率の引上げ」等が予定されています。
【給与】
タクシー運転手の「歩合給」をめぐる注目裁判の動向
◆「歩合給だから割増賃金なし」は有効?無効?
タクシー運転手の給与には、一定の基本給と運賃収入に応じて支給される歩合給からなる「歩合給制」が多くの会社で採用されていますが、今月末、この歩合給制をめぐる注目の判決が出される見通しです。
本事件では、タクシー運転手ら14人が、歩合給の計算にあたり残業手当等に相当する額を控除する旨を定める会社の賃金規則は無効であり、控除された残業手当等相当額の支払義務があるとして、未払賃金および遅延損害金等の支払いを求めており、東京地裁は、公序良俗に反するとして未払い賃金の合計約1,500万円の支払いを命じました(国際自動車事件・東京地判平27.1.28)。
◆分かれる裁判所の判断
同事件では、同じ内容を請求する訴訟が次々に提起されており、現在、第4次訴訟まで提起され、原告も200名を超える大きな訴訟となっています。
そのうち第2次訴訟では、割増賃金の算出方法を定める労働基準法37条に違反せず、公序良俗にも反しないとして原告の意見を斥けて(東京地判平28.4.21)おり、裁判所の判断が分かれています。
◆高裁判決も「無効」だが…
第1次訴訟の高裁判決(二審)では、地裁判決(一審)が支持され、会社側に未払い賃金の支払いが命じられたことから、会社側が上告し、現在も最高裁で係争中です。
そして、最高裁判決を前に双方の意見を聞く弁論が開かれました(1月31日)。
この弁論は、一審・二審とは異なる判断がなされる場合に最高裁判決を前に開かれることが多いことから、今月末の最高裁判決では「これまでと結論が異なるのでは?」と注目が集まっています。
◆運転手の残業代計算に大きな影響が
上記の通り、タクシー運転手の給与では「歩合給制」が採用されているケースが多いため、この事件の確定判決が及ぼす影響が少なくないと見られています。
特に、運転手の残業手当の計算方法やその定め方について見直しを迫られるタクシー会社もあることでしょう。
タクシー会社に限らず「歩合給制」を採用されている場合は、一度、自社の賃金規則をチェックしてみてはいかがでしょうか?
【年金】
2017年度から年金額等が変わります!
◆支給額は3年ぶりの減額
2017年度の年金額が「前年度比0.1%引下げ」と発表されました。
総務省が発表した「平成28 年平均の全国消費者物価指数」が前年から0.1%下落したことが年金額に反映されたものであり、3年ぶりの改定です。
なお、「マクロ経済スライド」はデフレ時には見送るという規定があり、2016度に引き続き適用されません。
2017年度の国民年金の支給額は、満額で月6万4,941円(前年度比67円減)、厚生年金の支給額は、会社員だった夫と専業主婦のモデル世帯(40 年間就業し、妻がその期間すべて専業主婦であった世帯が年金を受け取り始める場合)で月22万1,277円(同227円減)となります。
◆国民年金保険料、在職老齢年金は?
2017年度の国民年金保険料(月額)は16,490円(前年度比230円引上げ)です。
2004年(平成16年)の改正で保険料を毎年280円ずつ引き上げることが定められ、2017年度はその上限(16, 900円)の年度となり、同年度以降は16,900円で固定されるはずですが、前年の物価変動率や実質賃金変動率によって増減されます。
在職老齢年金は、60 歳台前半(60 ~64 歳)の支給停止調整変更額と60 歳台後半(65 ~69 歳)と70 歳以降の支給停止調整額については46 万円(前年度比1万円減)に改定となります。
また、60 歳台前半(60~64歳)の支給停止調整開始額(28 万円)は前年度と同額です。
◆「年金額の改定ルール」の見直し
昨年12月の臨時国会で成立した「年金制度改革関連法」には、年金支給額を賃金に合わせて引き下げる新しいルールが盛り込まれました。
この新ルールでは、現役世代の負担を重視し、物価が上がった場合でも現役世代の賃金が下がれば年金支給額を減らす仕組みで、2021年度からの実施となります。
【介護保険】
対策はお済みですか?「従業員による介護」をとりまく最新事情
◆施行から1カ月!「改正育児・介護休業法」
先月、育児・介護休業法の改正法が施行されました。
報道などでは「育児」のほうがクローズアップされがちですが、もう一方の「介護」も要注目の改正となっています。
◆1月から変わった「介護休業」
従業員の介護休業に関する今年1月からの改正点は次の通りです。
(1)介護休業の分割取得が可能に(3回を上限に通算93日まで)
(2)介護休暇の取得単位が柔軟化(半日単位も可能に)
(3)介護のための所定労働時間の短縮措置の回数増(介護休業とは別に3年間で2回以上)
(4)介護のための所定外労働の制限の新設(介護終了まで所定外労働を制限)
この他にも、介護の対象となる家族の範囲が拡大されたり、有期契約労働者の介護休業取得要件が緩和されたりと、全体的に従業員の「就業と介護の両立」をより柔軟に支援する方向性での改正と言えます。
今後、介護のために休業を希望する従業員が増えることが予想されます。
改正法はすでに施行されていますので、介護休業の運用体制がまだ整っていないという企業は、今すぐ就業規則や社内規程を見直さなければなりません。
◆マタハラ防止は当たり前。ケアハラ防止も忘れずに
さらに、今回の改正では、介護を理由とする従業員への不利益な取扱い(介護ハラスメント。通称「ケアハラ」)の防止措置が新たに義務付けられました。
介護休業を取得しようとする従業員に対し、休業を拒否したり、復帰後に閑職へ追いやったり、心無い言葉をかけるような行為が発生したりした場合、その企業は法的責任を追及されるおそれがあります。
防止措置とは、例えば社内報・研修・パンフレットなどで企業としての方針を周知・啓発することや、苦情を含む相談の窓口を設けることなどです。
これらはマタハラの防止と共通する措置でもあります。
◆企業もダブルケア対策の時代
「ダブルケア」という言葉をご存知でしょうか? 横浜国立大学の相馬准教授とブリストル大学の山下上級講師による造語であり、「子育てと介護が同時期に発生する状態」を指します。
近年は晩婚化の影響で、子育て期間と親の介護期間が重複しやすい傾向にあり、ダブルケアに直面する人が増えています。
内閣府の推計によれば、ダブルケアを行っている人は男性8万5,000人、女性16万8,000人で、この数字は今後、年々増加することでしょう。
企業にとっても、「育児休業やマタハラへの対応」と「介護休業やケアハラへの対応」の両立が必要です。今回の法改正をきっかけに、従業員のダブルケア対策を急ぎましょう。
【3月の税務と労務の手続[提出先・納付先]】
10日
○ 源泉徴収税額・住民税特別徴収税額の納付[郵便局または銀行]
○ 雇用保険被保険者資格取得届の提出<前月以降に採用した労働者がいる場合>
[公共職業安定所]
○ 労働保険一括有期事業開始届の提出<前月以降に一括有期事業を開始している場合>
[労働基準監督署]
15日
○ 個人の青色申告承認申請書の提出<新規適用のもの>[税務署]
○ 個人の道府県民税および市町村民税の申告[市区町村]
○ 個人事業税の申告[税務署]
○ 個人事業所税の申告[都・市]
○ 贈与税の申告期限<昨年度分>[税務署]
○ 所得税の確定申告期限[税務署]
○ 確定申告税額の延納の届出書の提出[税務署]
○ 国外財産調書の提出[税務署]
○ 総収入金額報告書の提出[税務署]
31日
○ 健保・厚年保険料の納付[郵便局または銀行]
○ 健康保険印紙受払等報告書の提出[年金事務所]
○ 労働保険印紙保険料納付・納付計器使用状況報告書の提出[公共職業安定所]
○ 外国人雇用状況の届出(雇用保険の被保険者でない場合)<雇入れ・離職の翌月末日>
[公共職業安定所]
○ 個人事業者の消費税の確定申告期限[税務署]
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