【労働契約】
「定年後再雇用者の賃金減額」をめぐる裁判で会社側が逆転勝訴
◆東京地裁から東京高裁へ
今年5月、東京地裁において、定年後に1年ごとの契約で嘱託社員として再雇用された複数の労働者(トラックドライバー)の職務内容が定年前と変わらないにもかかわらず、会社(長澤運輸)が賃金を約3割引き下げたこと(正社員との賃金格差)は労働契約法第20条の趣旨に反しており違法との判決がありました。
賃金格差について同条(期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止)の違反を認めた判決は過去に例がなく、「通常の労働者と定年後再雇用された労働者との不合理な格差是正に大きな影響を与える画期的な判決である」との評価もあり、人事労務担当者にとっては大きなインパクトのある判決として受け止められました。
その後、会社側が控訴していましたが、11月2日にその判決が東京高裁でありました。
◆控訴審における判断は?
控訴審判決において、裁判長は「定年後再雇用での賃金減額は一般的であり、社会的にも容認されている」とし、賃金の引下げは違法だとして差額の支払い等を命じた東京地裁判決を取り消し、労働者側の訴えを棄却しました。
労働者側の弁護士は、「減額が一般的であるとしても通常は職務内容や責任が変わっており、社会的に容認とする根拠は何もない」として、上告する方針を示しています。
◆賃金の設定には慎重な判断が必要
最高裁まで進む可能性があるため、司法における最終的な判断がどのように確定するのかは不明ですが、「控訴審の判断が妥当」と見る向きが多いようです。
しかし、この事件が定年後再雇用者の処遇についてのこれまでの常識(当然のように賃金の引下げを行うこと)について一石を投じたことには間違いはなく、最終的な結論がどちらに転んだとしても、今後、会社としては「定年後再雇用者の処遇」については慎重な判断が求められると言えるでしょう。
【求人・採用】
マタハラ防止策を講じない企業の求人はハローワークで不受理に
◆来年1月施行
厚生労働省は、昨年10月から順次施行されている若者雇用促進法(青少年の雇用の促進等に関する法律)に基づき、マタニティー・ハラスメント(マタハラ)に対して、男女雇用機会均等法で義務付けた防止措置を講じない企業の求人をハローワークで受理しないように制度を改めます。
政令を改正して、来年1月から施行されます。
◆求人不受理の対象に「マタハラ」を追加
ハローワークでは今年3月から、一定の労働関係法令の違反があった事業所を新卒者などに紹介することのないよう、こうした事業所の新卒求人を一定期間受け付けない仕組みを創設しています。
具体的には、労働基準法・最低賃金法については、(1)1年間に2回以上同一条項の違反について是正勧告を受けている場合、(2)違法な長時間労働を繰り返している企業として公表された場合、(3)対象条項違反により送検され公表された場合、また男女雇用機会均等法と育児・介護休業法については、法違反の是正を求める勧告に従わず公表された場合等に、当該企業の新卒求人を受理しない取り組みを始めています。
今回は、その不受理の対象に、「マタハラ」に関する規定を加えるというものです。
◆両立支援で女性の社会進出を後押し
男女雇用機会均等法は、女性従業員の妊娠や出産を理由に職場で不利益な扱いをされることがないように、相談窓口を設置するなど防止体制を整備するように求めています。
厚生労働省の調査で法違反が見つかれば、是正を求める勧告を行いますが、それにも従わずに企業名が公表された場合には求人を受理しないこととします。不受理となる期間は、違反が是正されてから6カ月が経過するまでの期間となります。
育児と仕事を両立させる環境整備を企業に促し、女性の社会進出を後押しする狙いです。
◆就労実態等の職場環境に関するデータベースも整備
また、厚生労働省では、残業時間や育休の取得率など企業の職場環境に関する様々な情報を集めたデータベースを整備する計画です。
若者がいわゆる「ブラック企業」へ就職してしまうことを防ぐために、労働条件などの的確な情報に加えて、平均勤続年数や研修の有無・内容といった就労実態等の職場情報も併せて提供し、職場情報についての開示を強化するように企業側に働きかけ、学生や転職を考えている人がそうした企業に就職することを未然に防ごうというものです。
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